伏見恵理子

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Texts

「移動のなかで」2022.12

 素材間の移動の中で生まれるものに関心を持ち、絵を制作しています。私の作品制作は、手のひらサイズの紙に描いた絵を基準点にしています。日常や旅先で出会った風景などを、机に水平に置いた版画紙に擦りつけるように描きます。同じ風景を何度も繰り返し描くことで、その中の形は変化していき次第に原形がわからないような形になります。これらの小さな絵にはおもにアルキド樹脂絵具を使います。そこで筆跡となったにじみやかすれを、紙とは浸透性が異なる素材である画布にサイズを拡大してアクリル絵具で描いていきます。テクスチャーを見直し、うつしとろうとするときに、紙と画布のしみこみの差は2つの絵の質にずれを生じさせます。画布は紙より水をはじくので、紙では現象として自然に現れるが、画布では自然には起こりえない筆跡を、移動させるように描くことになります。筆跡の形を木や石など実際にある物のように捉えて、ボリュームを出すように絵具を重ねます。

 私はこの異なるものの間の移動において、2つが似ながらもずれていくことを大切にしていて、そこに既知の風景から未知の風景が生まれるきっかけがあると思っています。移動の中で、あらかじめ絵にあった形象の意味は解体されて、離れたものがくっついたりして、やがて新たなイメージを想起させる形が生まれてきます。もやのような、つかめないかたちの中にある風景を見つけたくて描いています。

 このような描き方を用いて移動の中で起きるイメージの変容を感じているのですが、モチーフである風景においても変容は私にとって大きなテーマです。いつもの風景がそのときの感情によって全く違って見えたり、初めて見た風景を感覚的に知っていると思うことがあるように、風景の質は個人的な出来事や感情によって大きく姿を変えます。風景があるがままに見えているのではなく、人がそこに感情や性質を与えていること、そうした生活の中の実感が制作の原点としてあり、うつりかわる自然や心象を絵に描きたいと思っています。



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2015.7

 物として決まったサイズを持たない文字をモチーフとするような感覚で、形の内部にある何か広い風景を見つけたくて描いている。

 私の作品制作は、手のひらサイズの紙に描いた絵を基準点にしている。机に水平に置いた紙に擦りつけるように描いたときに筆跡となった滲みやかすれを、浸透性が異なる素材である画布にサイズを拡大して描いていく。紙の上のにじみやかすれといったテクスチャーを見直し、うつしとろうとするときに、紙と画布のしみこみの差は2つの絵の質にずれを生じさせる。あらかじめ絵にあった形象の意味は解体され、離れたものがくっついたりして、やがて新たなイメージを想起させる形が生まれてくる。
 ここで制作の意思決定の一部は、私以外の何かによって方向づけられている。それは自らの内部に外部を含む感覚であり、異なるものの間の移行において2つが似ながらもずれていくことによって、既知の風景から未知の風景が生まれることを望んでいる。



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「文字の風景」について   2014.5.18

 物理的なサイズを持たない、「文字」をモチーフとして描くように、その絵が何を表しているかという表象を超えて、そこに内在する広い風景を見つけるような思いで描く。
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